はじめに
前回は、趣味と仕事の違いは作品の上手さではなく、お客様との約束を引き受けるかどうかにある、というお話をしました。
約束を守り、仕事として作り続けていく。そのとき、もうひとつ大切になるのが、「好き」という気持ちそのものを守ることです。
今回は、「好き」で始めた仕事を、何年先も「好き」のまま続けていくための視点についてお話しします。
「好き」は、すり減ることがある
好きなことを仕事にしたのに、いつの間にか作ることが楽しくなくなっていた。そんな声を聞くことがあります。
- 注文や締め切りに追われて、同じ作品ばかり作っている
- 売れるかどうかばかりが気になって、作りたいものがわからなくなる
- SNSで他の作家と比べて、自分の作品に自信が持てなくなる
- 休むと売上が止まる気がして、休めない
これは、「好き」が本物ではなかったということではありません。どんなに好きなことでも、使うばかりで補うことをしなければ、少しずつすり減っていきます。
だからこそ、「好き」は放っておいても続くものではなく、意識して守り、育てていくものだと考えてほしいのです。
自分の「好き」の源を知る
「好き」を守るために、まず知っておきたいのは、自分がいったい何を好きなのか、ということです。
一口に「作ることが好き」といっても、その中身は人によって違います。
- 無心で糸を結んでいる時間そのものが好き
- 素材や石を選び、組み合わせを考えるのが好き
- 新しい形を生み出し、完成させる瞬間が好き
- 身につけた人が喜んでくれることが好き
- 技術を教え、誰かができるようになる姿を見るのが好き
どの「好き」が自分の真ん中にあるのかがわかると、仕事の中で守りたいものがはっきりします。たとえば、素材選びがいちばん好きな人が、忙しさのあまり素材をじっくり選ぶ時間を削っていたら、それは「好き」の源を手放していることになります。
この「好き」の中身は、第3章で自分らしさを見つけるときの手がかりにもなります。
続けるための三つの視点
「好き」を長く続けるためには、気持ちだけでなく、それを支える土台にも目を向ける必要があります。私は、次の三つの視点を大切にしています。
| 視点 | 問いかけ | すり減っているサイン |
|---|---|---|
| 心 | 作ることを、まだ楽しいと感じられているか | 作業が「こなすもの」になっている |
| 体 | 無理のないペースで制作できているか | 肩や目の疲れ、睡眠不足が続いている |
| お金 | 続けられるだけの利益が残っているか | がんばるほど、手元に何も残らない |
三つは互いにつながっています。お金に余裕がなければ無理な量を引き受けて体が疲れ、体が疲れれば心も楽しめなくなります。どれか一つが崩れると、ほかの二つも少しずつ崩れていきます。
時々立ち止まって、三つの視点で自分の状態を確かめてみてください。時間と労力の把握は第1章05、利益の見方は第1章06で、具体的に取り上げます。
「好き」を育てる余白をつくる
「好き」を守るだけでなく、育てていくためには、作る時間以外の「余白」が欠かせません。
- 触れる時間:美しいもの、新しい素材、知らない技法に触れる
- 試す時間:売ることを考えずに、自由に作ってみる
- 離れる時間:制作から完全に離れて、心と体を休める
私にとっては、素材を探しに海外へ足を運ぶ時間が、その余白にあたります。インドで石を一つずつ手に取って選んでいるとき、「この石で何を作ろう」という気持ちが自然と湧いてきます。作る時間を減らしているように見えて、実は次の作品づくりを支えてくれているのです。
余白は、時間があるときに自然にできるものではありません。月に何日か、先に予定として確保しておくことをおすすめします。
おわりに
「好き」は、仕事を始めるきっかけであると同時に、仕事を続けるためのいちばんの支えです。
自分の「好き」の源を知り、心・体・お金の三つで土台を確かめ、余白をつくって育てていく。そうして守られた「好き」は、作品にも、お客様にも、きっと伝わっていきます。
次回は「作家として、どんな働き方をしたいのか」についてお話しします。