はじめに
前回は、作家活動を「小さなお店」として見直し、作り手の目と店主の目を両方持つことの大切さをお話ししました。
今回のテーマは「趣味と仕事の違いはどこにあるのか」です。序章でも、趣味と仕事を分けるのは「作品の向こうに受け取る人がいるかどうか」だとお伝えしました。
今回は、そこからもう一歩踏み込みます。受け取る人がいるとき、作り手の毎日は具体的に何が変わるのか。実際の仕事の場面に沿って見ていきます。
同じ作品でも、仕事になると変わること
たとえば、マクラメのブレスレットを一本作るとします。趣味で作るときも、仕事として作るときも、手を動かす工程はほとんど同じです。
けれど、そのブレスレットが「友人へのプレゼント」から「お客様からのご注文」に変わった瞬間、作り手が考えることは大きく変わります。
- いつまでにお届けすると約束したか
- 写真で見ていただいたものと、同じ仕上がりになっているか
- サイズや素材について、きちんと説明できているか
- いただいた代金に見合う品質になっているか
- 万が一ほどけたり壊れたりしたら、どう対応するか
作品そのものは変わらなくても、その周りに「お客様との約束」が生まれる。それが、仕事になるということです。
趣味と仕事の違い
趣味と仕事の違いを、作家活動の具体的な場面で並べてみます。
| 趣味として作る | 仕事として作る | |
|---|---|---|
| 約束 | 締め切りはなく、気が向いたときに作れる | 納期や発送日を守る必要がある |
| 品質 | 少しのゆがみも「味」として楽しめる | 安定した品質を届ける |
| お金 | 材料費は「趣味に使うお金」 | 材料費・手数料・送料などを記録し、利益を確かめる |
| 時間 | どれだけかかっても楽しい時間 | かかった時間も価格や働き方に関わる |
| 責任 | 失敗しても自分だけのこと | 不具合や問い合わせに対応する |
| 続け方 | 飽きたら休んでもよい | 定番商品や在庫を続けて届ける |
こうして並べると、趣味と仕事の違いは、作品の出来よりも、その周りにある「決めごと」にあることがわかります。
「約束を守る」ことが信頼になる
仕事としての作家活動を支えるのは、特別な技術よりも、当たり前の約束を当たり前に守ることです。
約束した日に届く。写真と同じものが届く。問い合わせにはきちんと返事がある。何かあったときにも、誠実に対応してもらえる。そうした経験の積み重ねが、「この人からなら安心して買える」という信頼になります。
ハンドメイドの作品は、お客様にとって「手に取るまでわからない」ものです。だからこそ、作品の魅力と同じくらい、作り手への信頼が購入の決め手になります。一度買ってくださった方が、また次も選んでくれるかどうかも、この信頼にかかっています。
約束を守るためには、「守れる約束だけをする」ことも大切です。無理な納期や、対応しきれない数の受注を引き受けない。自分の制作ペースを知り、それに合った約束の仕方を決めておくことも、仕事の一部です。
余談ですが、私自身の経験として納期の重要さは身をもって感じました。企業様とコラボレーションをする際に、どれだけスケジュールが押しても、材料の納品が大幅に遅れても、たくさんの関係者が関わる企画である以上は私の役目は期日に間に合わせる必要がありました。この日に間に合わなければ、撮影チーム、印刷など様々なところに影響を及ぼすからです。
趣味の楽しさを手放さないために
仕事には約束や責任がある、と聞くと、少し息苦しく感じるかもしれません。けれど、趣味の楽しさをすべて手放す必要はありません。
おすすめしたいのは、「仕事の制作」と「自分のための制作」を、あえて分けておくことです。
- 仕事の制作:納期や品質を守り、お客様に届けるための制作
- 自分のための制作:売ることを考えずに、新しい素材や技法を試す自由な制作
自分のための制作は、遊びではありません。そこで生まれた発見が、やがて新しい定番作品や世界観の幅につながっていきます。「好き」で始めた仕事を長く続けるためにも、時には趣味のように作る時間を、自分に許してあげてください。
おわりに
趣味と仕事の違いは、作品の上手さではなく、お客様との約束を引き受けるかどうかにあります。
その約束を一つずつ守っていくことが信頼になり、作家としての土台になっていきます。そして、自分のために作る時間も大切にしながら、仕事としての制作を続けていきましょう。
次回は「「好き」を続けるために必要な視点」についてお話しします。