はじめに
前回 は、「作ることが好き」という気持ちだけでは仕事にならないこと、そして作家の仕事には「作る」の前と後にも大切な仕事があることをお話ししました。
今回は、作り手の多くがいつか必ず向き合うことになる、ひとつの現実についてお話しします。それは、「上手に作れること」と「選ばれること」は違う、ということです。
私が講師として、作り手の皆さんにいちばん伝えたいことのひとつでもあります。
上手なのに、届かないという悩み
結び目はきれいにそろっていて、仕上げも丁寧。誰が見ても「上手」と思える作品なのに、なかなか売れない。そんな悩みを抱えている作り手は、実はとても多いのです。
そして、この悩みが苦しいのは、真面目な人ほど「まだ技術が足りないからだ」と考えてしまうことです。もっと練習しよう、もっと難しい技法を覚えよう。そうして技術はどんどん上がっていくのに、売れない状況はあまり変わらない。
もしかすると、足りないのは技術ではないのかもしれません。そう気づくことが、この記事のいちばんの目的です。
お客様は「技術」を見て選んでいるわけではない
少し、買う側の立場になって考えてみてください。あなたがアクセサリーを買うとき、結び目の数や技法の難しさを確かめて選ぶでしょうか。
多くの場合、そうではないはずです。「この色、好きだな」「あの服に合いそう」「この人の作るものは、なんだか惹かれる」。そんな気持ちが動いたときに、人は手を伸ばします。
もちろん、雑な作りのものは選ばれません。けれど、ある程度の完成度を超えると、お客様にとって「どれくらい上手か」の差は、ほとんど見分けがつかなくなります。そこから先は、技術とは別の理由で選ばれているのです。
作り手の物差しと、選ぶ人の物差し
作り手は、つい作り手の物差しで作品を見てしまいます。
| 作り手が気にしていること | お客様が感じていること |
|---|---|
| 結び目が均一にそろっているか | 身につけたときに素敵に見えるか |
| 難しい技法を使っているか | 自分の好みや服に合うか |
| 材料費や制作時間に見合う出来か | この値段を払いたいと思えるか |
| 他の作家より上手かどうか | この人から買いたいと思えるか |
どちらの物差しも間違いではありません。ただ、作品を買うかどうかを決めるのは、右側の物差しを持ったお客様です。
作り手が左側だけを見て作品づくりを続けていると、どれだけ努力しても、お客様の「欲しい」とはすれ違ったままになってしまいます。
技術は土台、選ばれる理由はその先にある
ここまで読むと、「技術はあまり大切ではないの?」と思われるかもしれません。でも、そうではありません。
技術は、作品を形にするための土台です。土台がしっかりしているからこそ、思い描いた色や形を、思い描いたとおりに表現できます。マクラメも、それ自体がゴールではなく、自分らしさを表現するための手段だと私は考えています。
大切なのは、技術を磨くことと、選ばれる理由をつくることを、別のこととして考えることです。どんな人に、どんな気持ちで手に取ってほしいのか。その作品の何に惹かれてもらいたいのか。その答えを持っている作り手が、選ばれていきます。
選ばれる理由をどうつくるかは、第3章から第6章で、具体的に一つずつ取り上げていきます。
おわりに
上手に作れることは、作家にとって大きな財産です。けれど、それだけで選ばれるわけではありません。
「もっと上手にならなければ」と思ったときこそ、一度手を止めて、お客様の物差しで自分の作品を見てみてください。足りないと思っていたものが、実は技術ではなかったと気づけるかもしれません。
次回は「作品づくりと作家活動は別の力」についてお話しします。