はじめに
「好きなことを仕事にしたい」。講師として受講生さんと話していると、この言葉を本当によく耳にします。
「好きではない仕事をしているのですが、大好きなものづくりを仕事にしたい」
「パート勤務をしていますが、パート代がハンドメイド販売に置き換えることができたらいいのに」など。
私はALANKARという屋号で、マクラメのアクセサリーを作り、その技術を教える仕事をしています。糸はブラジルの繊維メーカーから、天然石はインド・ジャイプールから、自分の目で選んで輸入しています。
この連載では、ハンドメイド作家が「好き」を仕事に変えていくために必要なことを、作り手として、そして教える立場として見てきたことをもとに、一つずつ言葉にしていきます。最初の記事は、そのいちばん入り口のお話です。
その気持ちは、とても自然なこと
作ることが好きで、手を動かしている時間が楽しい。作ったものを「素敵」と言ってもらえると嬉しい。そうした経験を重ねるうちに「これを仕事にできたら」と考えるのは、とても自然なことです。
同時に、多くの人がこんな迷いも抱えています。
- 自分の作品に、お金をいただくだけの価値があるのだろうか
- 何から始めればいいのかわからない
- 好きなことが「仕事」になったら、楽しくなくなるのではないか
- 周りには、もっと上手な人がたくさんいる
どれも、真剣に考えているからこそ出てくる迷いです。迷っていること自体は、決して悪いことではありません。
「好き」の外側にある仕事も引き受ける
ただ、最初にひとつだけお伝えしておきたいことがあります。好きなことを仕事にするとは、「好きなことだけをして暮らす」ことではありません。
作家の仕事には、作ること以外の仕事がたくさんあります。
材料を仕入れる。価格を決める。写真を撮り、言葉を添えて発信する。販売の場を選び、お客様とやり取りをする。売上と経費を記録する。作家として活動していると、作る時間よりもそれ以外の時間のほうが長い日も珍しくありません。
それでも、「好き」が失われるわけではありません。作品を必要としてくれる人に届けるための仕事だと考えると、その一つひとつが「好き」を支える土台になっていきます。
最初に、自分に問いかけてほしいこと
これから始める人も、すでに活動している人も、一度立ち止まって考えてみてほしい問いが三つあります。
- なぜ、それを仕事にしたいのか 収入を得たいのか、作品を通して誰かとつながりたいのか、自分の時間を自分で決めて働きたいのか。理由は一つでなくて構いません。
- 誰に届けたいのか あなたの作品を手に取ってほしいのは、どんな人でしょうか。年齢や好みだけでなく、どんな場面で身につけてほしいかまで想像してみてください。
- どんな働き方をしたいのか 制作にじっくり打ち込みたいのか、家庭や別の仕事と両立したいのか。どれくらいの時間を、どれくらいの収入につなげたいのか。
答えは今すぐ出なくても大丈夫です。ぜひ紙やノートに書いておいてください。
この三つの問いは、これからの章で何度も立ち返る出発点になります。
つなげて考えることで、仕事になる
多くの作り手と関わる中で強く感じているのは、「上手に作れること」と「選ばれること」は違う、ということです。素晴らしい技術を持っていても、作品が届くべき人に届かないままになっている人は少なくありません。
例えば、素晴らしいものづくりをしているのに、売る場所を間違えてしまっていることもあります。
その理由の多くは、技術・世界観・発信・販売がバラバラになっていることにあります。技術を磨き、自分らしい世界観をつくり、それを伝わる言葉と写真で発信し、届く場所で販売する。この四つが一本の線でつながったとき、「好き」は仕事として動き始めます。
私の専門はマクラメですが、この考え方は、素材や技法を問わず、すべての作り手に共通するものだと考えています。この連載では、その一つひとつを章ごとに掘り下げていきます。
おわりに
「好きなことを仕事にしたい」と思ったその気持ちは、すでに大切な第一歩です。
大切なのは、「好き」を手放さずに、仕事として続けられる形を少しずつつくっていくこと。そのための考え方と具体的な方法を、これから一緒に見ていきましょう。
次回は「作ることが好き、だけでは仕事にならない」についてお話しします。