第2章 技術は「土台」であって「目的」ではない vol.4

「好き」を仕事に変える小さなブランドのつくり方

Ⅴ 技術に振り回されないために

「もっといろいろな技術を覚えなければ」

「まだ知らない技法がたくさんあるから、オリジナル作品が作れない」

「新しい技法を習うたびに、作品に取り入れたくなる」

「せっかく習った技術だから、使わなければもったいない気がする」

そんなふうに感じたことはありませんか?

マクラメを学び始めた頃は、技術が増えることがそのまま成長のように感じられます。

一つ結べるようになった。

新しい技法を覚えた。

今まで作れなかった形が作れるようになった。

これは、とても嬉しいことです。

だからこそ、もっと知りたくなる。

もっとできるようになりたくなる。

そして、いつの間にか、

「技術を増やすこと」そのものが目的になってしまうことがあります。

でも、作家として活動していくなら、ここで一度立ち止まって考えてみることが大切です。

技術は、何のためにあるのでしょうか。

技術をたくさん持っていることが、作家としてのゴールなのでしょうか。

私は、そうではないと思っています。

技術は、表現するための道具です。

だからこそ、技術に振り回されるのではなく、

「私は何を表現したいのか」

を中心に置くことが大切なのです。


1. 技術が増えることは、悪いことではない

まず、誤解してほしくないのは、

「技術を増やす必要はない」

ということではありません。

技術を学ぶことは、とても大切です。

知らなければ使えない技術があります。

できなければ表現できないこともあります。

技術が増えることで、作品づくりの選択肢も広がります。

だから、

学ぶことは必要です。

ただし、

「技術を増やすこと」と「表現できること」は同じではありません。

ここを混同しないことが大切です。

例えば、10種類の技法を知っている人と、5種類しか知らない人がいたとします。

10種類知っているからといって、必ずしも10種類すべてを使った作品のほうが魅力的になるわけではありません。

むしろ、5種類の技法を深く理解し、

「この作品にはこれが必要」

「ここはあえて使わない」

と判断できる人のほうが、まとまりのある表現を生み出せることもあります。

大切なのは、

どれだけ持っているかではなく、どう使うか。

なのです。


2. 「せっかく習ったから使わなければ」は必要ない

新しい技術を習うと、

「せっかく覚えたのだから、作品に入れたい」

と思うことがあります。

これは、とても自然なことです。

でも、作品を作るたびに、

「ここにはこの技法」

「ここにも新しい技法」

「せっかくだから、これも入れてみよう」

と足していくと、作品の中に技術が増えていきます。

すると、

「この作品で一番見せたいものは何だったのか」

がわからなくなることがあります。

例えば、天然石を主役にしたかったのに、結びの装飾が多くなって石が目立たなくなる。

シンプルで上品な作品にしたかったのに、技法を足していくうちに複雑になる。

柔らかな雰囲気にしたかったのに、結びの種類が増えて全体が重い印象になる。

こうしたことは、技術が足りないから起こるのではありません。

むしろ、

技術があるからこそ起こることがあります。

だから、技術を学んだら、

「使わなければいけない」

ではなく、

「この作品に必要だろうか?」

と考えてみることが大切です。


3. 「できること」と「やること」は違う

技術が身につくと、できることが増えていきます。

でも、

できることが増えることと、やることを増やすことは違います。

例えば、料理でも同じです。

いろいろな調味料を持っているからといって、すべての料理に使うわけではありません。

素材を活かしたいなら、あえて調味料を減らすこともあります。

料理の目的によって、使うものを選びます。

作品づくりも同じです。

技術をたくさん知っているからこそ、

「今回は使わない」

という選択ができるようになります。

これは、技術が少ないからできないのではありません。

技術を理解しているからこそできる選択です。


4. 技術を「目的」にしない

作家活動を続けていると、

「次は何を習おう?」

という考えが出てきます。

もちろん、新しい技術を学ぶことは楽しいものです。

でも、その前に、

「なぜ、その技術を学びたいのか?」

を考えてみてください。

「面白そうだから」

「もっと上手になりたいから」

という理由でも構いません。

ただ、作家として表現を深めたいのであれば、

「今の自分には、どんな表現が足りないのか?」

まで考えてみると、学び方が変わります。

例えば、

「もっと細かな装飾を表現したい」

のであれば、そのために必要な技術を学ぶ。

「天然石の形を活かしたデザインを作りたい」

のであれば、そのために必要な技術を学ぶ。

「立体的な作品を作りたい」

のであれば、立体表現につながる技術を学ぶ。

この順番なら、

表現したいこと → 必要な技術を学ぶ

となります。

逆に、

新しい技術を知る → 何かに使ってみる

だけになってしまうと、技術が目的になりやすくなります。


5. 「何ができるか」より「何を表現したいか」

作家として成長していくと、問いが変わってきます。

最初は、

「この技法で何が作れるんだろう?」

と考えます。

これは、技術を学ぶ段階ではとても大切な問いです。

でも、その先では、

「私は何を作りたいんだろう?」

さらに、

「私は何を表現したいんだろう?」

という問いに変わっていきます。

例えば、

「天然石の美しさを引き立てたい」

と思ったとします。

すると、

「どんな技術を使うか」

より先に、

「石を主役にするには、どうすればいいか」

を考えるようになります。

装飾を減らすかもしれません。

コードを細くするかもしれません。

色を抑えるかもしれません。

余白を増やすかもしれません。

つまり、

技術を使うために作品を作るのではなく、表現したいもののために技術を選ぶ。

この視点が大切なのです。


6. 技術を「引き算」することも、表現になる

作品づくりでは、

「何を加えるか」

ばかりを考えがちです。

でも、技術が増えてきたら、

「何をやめるか」

も考えてみてください。

例えば、

「ここは装飾を入れない」

「この技法は使わない」

「コードの色を増やさない」

「結び目を増やしすぎない」

「天然石の周りに余白を残す」

こうした選択も、立派なデザインです。

何かを足さなかったからこそ、見えてくるものがあります。

特に天然石を扱う作品では、

石そのものの形や色、質感を活かすために、あえてシンプルにすることもあります。

「使えるけれど、使わない」

という判断も、作家としての表現の一つなのです。


7. 技術に振り回されると、「自分」が見えなくなる

技術を増やすことばかりに意識が向いてしまうと、

「この技法を使わなければ」

「もっと難しいことをしなければ」

「もっと複雑な作品を作らなければ」

と考えるようになります。

すると、いつの間にか、

「私は何を作りたいのか」

が後回しになってしまいます。

他の作家さんの作品を見て、

「こんな技術を使っている。私も覚えなければ」

と思う。

目新しい作品を見るたびに、

「次はこれを取り入れよう」

と思う。

それを繰り返していると、作品の中に他人の基準ばかりが増えていきます。

もちろん、他の作品から学ぶことは大切です。

でも、

「素敵だから取り入れる」と「自分が表現したいから取り入れる」は違います。

その違いを意識してみてください。


8. 「自分に必要な技術」を選べるようになる

技術を学ぶことに慣れてきたら、

「次に何を学ぶか」

も、自分で選べるようになっていきます。

例えば、

「今の自分には、細かな装飾技法よりも、形をきれいに作る技術が必要」

「新しい結び方より、今知っている技法を安定して使えるようになることが必要」

「作品の技術よりも、天然石の知識を深めたほうが表現の幅が広がりそう」

という判断ができるようになります。

これは、作家としてとても大切なことです。

学ぶことを他人任せにするのではなく、

「今の自分には何が必要なのか」

を考えられるようになる。

それが、学びを自分の表現につなげる力になります。


9. 「技術の数」ではなく「技術の理解」を深める

技術を増やすことに焦る前に、今持っている技術を深く理解してみることもおすすめです。

例えば、一つの技法について、

「どんな形を作れるか」

だけではなく、

「どんな印象になるか」

「どんな素材と相性がいいか」

「どんな太さのコードに向いているか」

「どこに使うと効果的か」

「逆に、どんな場面では使わないほうがいいか」

まで考えてみる。

すると、一つの技法から得られる情報が増えていきます。

技術を「覚えた」で終わらせず、

「理解して、選べる」

ところまで深めていく。

これが、技術に振り回されないための大きなポイントです。


10. 実際にやってみる「技術の棚卸し」

もし今、

「技術を学んでいるけれど、作品づくりにうまくつながらない」

と感じているなら、一度、技術の棚卸しをしてみてください。

紙に、今知っている技術を書き出します。

そして、それぞれについて、

  • この技術で何ができる?
  • どんな印象を作れる?
  • どんな素材と相性がいい?
  • どんな作品に向いている?
  • 自分はこの技術が好き?
  • 今後、どんな表現に使いたい?

を書いてみます。

そして最後に、

「今の自分が本当に必要としている技術は何か?」

を考えてみる。

もしかすると、

「新しい技術を増やす必要はなかった」

という答えになるかもしれません。

今持っている技術を組み合わせるだけでも、十分に新しい表現ができるかもしれません。

あるいは、

「この表現をするためには、この技術が必要だ」

という明確な目的が見つかるかもしれません。

どちらも大切な発見です。


11. 「技術を学ぶ」と「技術に使われる」は違う

技術を学ぶことは、自由になるためでもあります。

できることが増える。

選択肢が増える。

自分のイメージを形にできる。

だから、本来は技術が増えるほど、自由になっていくはずです。

それなのに、

「この技法を使わなければ」

「もっと難しいものを作らなければ」

「もっと技術がなければ」

と苦しくなってしまうのであれば、一度立ち止まってみる。

それは、技術を使っているのではなく、

技術に使われている状態

になっているのかもしれません。

技術は、あなたの代わりに作品を作ってくれるものではありません。

あなたが表現したいものを形にするための道具です。

だから、

道具に作品を決めてもらうのではなく、自分が道具を選ぶ。

この意識を持ってみてください。


12. 技術があるからこそ、「使わない」という自由が生まれる

本当の意味で技術が身についてくると、

「これもできる」

「これも使える」

というだけではなく、

「今回は使わなくていい」

という判断もできるようになります。

これは、技術が少ないときには難しいことです。

知らないから使えないのか。

知っているけれど使わないのか。

この二つは、まったく違います。

だからこそ、

「使わない」という選択ができることも、技術が身についた証の一つです。

技術を増やすことによって、作品を複雑にするのではなく、

技術を理解することによって、作品を必要なものだけで構成できるようになる。

その先に、自分らしい表現があります。


13.作家に必要なのは、「技術」だけではない

作家として活動していくためには、技術が必要です。

でも、それだけではありません。

何を作るのか。

なぜ作るのか。

誰に届けるのか。

どんな価値を届けたいのか。

どんな世界観を表現したいのか。

そして、そのためにどんな技術を使うのか。

こうしたことを考える力も必要です。

つまり、

技術だけで作品を作るのではなく、技術と考える力を組み合わせて作品を作る。

その中に、感性や経験が加わっていきます。

だからこそ、同じ技術を使っていても、作る人によって作品が違ってきます。

技術そのものが個性なのではありません。

技術をどう選び、どう使い、何を表現するのか。

そこに、その人らしさが表れるのです。


14. 技術は「自由になるため」に学ぶ

技術を学ぶことの本当の意味は、

「難しいことができるようになること」

だけではありません。

自分の中にあるイメージを、より自由に形にできるようになることです。

だから、

「この技術を使わなければ」

ではなく、

「この表現のために、この技術を使おう」

と考えてみる。

「もっと技術を増やさなければ」

ではなく、

「今の自分に必要な技術は何だろう?」

と考えてみる。

「もっと複雑な作品を作らなければ」

ではなく、

「この作品には、何が必要で、何が必要ないだろう?」

と考えてみる。

この視点に変わると、技術との付き合い方が変わります。


15. まとめ

技術を学ぶことは、作家として成長するために必要です。

でも、

技術の数が、そのまま作家としての価値になるわけではありません。

大切なのは、

何を表現したいのか。

そのために、どんな技術が必要なのか。

どの技術を使い、どの技術を使わないのか。

そして、それらをどう組み合わせるのか。

を、自分で考えられることです。

技術が増えたら、全部使わなくてもいい。

新しい技術を知ったからといって、すぐ作品に取り入れなくてもいい。

今持っている技術を、もう一度深く理解してみてもいい。

時には、

「今の自分には、この技術は必要ない」

と判断することも、立派な選択です。

技術は、作品を作るための目的ではありません。

自分の中にある感性や想いを、形にするための道具です。

だからこそ、

「何ができるか」ではなく、

「何を表現したいのか」

を大切にする。

技術に振り回されるのではなく、

自分が技術を選ぶ。

その状態になったとき、技術は「制約」ではなく「自由」に変わります。

そして、技術を学ぶことの先にあるのは、

「たくさんの技術を持っている作家」

ではなく、

「必要な技術を選び、自分の表現として使える作家」

なのだと思います。

技術は、ゴールではありません。

あなたの世界を形にするための、手段です。

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